仮想世界をモチーフにした物語は昔からSFの定番ですが。
このお話も『東京スフィア』という仮想の世界が舞台です。

他の物語と違うのはこの仮想の世界が現実の世界をデータ化するマッピングの副産物であると言う設定。
なので、静的なもの以外は存在しないという。
要するに、人間も居なければ電車や車と言った動きのあるものすら存在しない。
その理由は『動的なものはメモリー容量を食ってしまう』と言うものすごく現実的な理由。
その世界に企業が価値を見いだしアバターを通して現実とは別の世界が展開されたと。
このあたりはインターネットの黎明期のような生い立ちを感じます。

この東京スフィアが閉鎖された理由を紐解いていく事で物語が進行していきますが、その過程でクラスのアイドル『青原遙花』の秘密も明らかになっていきます。
実は彼女は現実と仮想の世界に分断されていた…らいしいが、そこに東京スフィアの再生とも何かの関係がある様なのですが…。
この仮想の世界の遙花(ハルカ)の存在を巡って争奪戦が繰り広げられることになるのだが、そこに東京スフィアが閉鎖されることになった最大の要因、カスケードと呼ばれる強力なバグが現れ、東京スフィアを蝕んでいく…。

割と、夢物語で終始しそうな仮想世界ものなのに、現実の世界をものすごく意識させるストーリー展開で、設定も現実にある事象をモチーフに用いられていて思った以上に引き込まれました。
結果として、お望みの結末…という風にはなっていませんが、まあ、こういうのも現実的な終わり方でもいいのかな?

…なんてね。

 

電撃文庫『アトリウムの恋人』
電撃文庫『アトリウムの恋人』
アトリウムの恋人
電撃文庫
著者 土橋 真二郎
出版社 アスキー・メディア・ワークス
発行年月日 2011年05月
サイズ/ページ数 文庫/299
価格 ¥570(税別)
ISBN 978-4-04-870543-1
概要 とある理由により閉鎖された仮想世界「東京スフィア」。高校生の前田は、普段は言葉を交わさないクラスのアイドル青原遙花から、その存在について相談を受ける。身に覚えのない東京スフィアの入場チケットと大金100万円—その後も執拗にスフィアのことを調べたがる遙花は、前田の他にも数名の生徒を誘って、サークルを設立してしまうのだが…。そのチケットは、前田にとって歓迎すべき“招待状”なのか、それとも—!?『扉の外』『ラプンツェルの翼』の土橋真二郎が贈る、待望の新シリーズ。
おいら的評価 [rating=5]